イギリス


団体行動のロンドン

 日本航空の北回り便でアンカレッジを経由して、成田から17時間かけてロンドンに到着。前年の人生初の海外旅行では、ルフトハンザ航空の南回りで香港とカラチを経由してフランクフルトまで24時間かかったから、それに比べれば楽なもの。ツアーの一行は10人弱で全員が学生。ロンドンに2泊したあとは、約1か月後のパリのホテルで集合するまでは自由行動になっている。
 ヒースロー空港で、現地の日本人ガイドとはすぐに会えたが、迎えのバスがなかなか来ない。今はガイドに任せきりで良いけれども、これからは自分だけでトラブルに対処しなければならない。
 ホテルは街の中心にあるストランド。パレス・ホテル。外観は歴史を感じさせるというか古臭いけれど、部屋などの館内は学生という自分の基準から見ればとても豪華で、これからも同じレベルのホテルに泊まりたいが無理だろう。
 ガイドの案内で付近のトラファルガー広場へ。ネルソン提督という軍人の像が街の中心の広場に堂々と立っていることに違和感を覚える。皆と一緒に名物のフィッシュ・アンド・チップスの店へ。実は魚が嫌いだけれど仕方が無い。注文とは違うものが出てきて、英語の上手な女の子に助けてもらう。


クラシックのコンサート

 一旦ホテルに戻ってから一人で出かける。いわゆる観光名所といわれている場所は、昨年のツアーで一通り見ているので、マダム・タッソーというところへ行く。蝋人形がたくさんあるけれど、名前は知っていても顔と一致しない。
 日本人としては、たった一人だけ吉田茂がいる。自分には大した知識も無くて、良いイメージを持っていなかったせいもあって、意外な人選に思う。

 観光だけではなく、今後のための準備もしなければならない。まずはスコットランドの「首都」エジンバラまでの指定席券の購入。予定しているのは9時発の列車。次の10時発は100年以上も出発時刻が変わらないという伝統のフライング・スコッツマン号で魅かれるが、エジンバラでの滞在時間が減ってしまうので諦める。
 明後日に乗車する予定のキングスクロス駅で、ケント・ギルバートに似た駅員から購入。乗車日が少し伝わりにくかっただけで、案外上手くいく。

 次はロイヤルフェスティバル・ホールで今晩行われるクラシック・コンサート。日本で予約の際に受け取っていた引換証をチケットに交換しなければならない。ところが、連絡が上手くいっていないようで座席が無いようなことを言われる。簡単に引き下がるわけにもいかず、すでに11ポンド程度を支払い済みであるなどと粘ると、18時くらいにもう一度来てほしいと言われる。
 約束の時刻に再び訪れると開演時刻が近づいているせいか、多くの人たちが集まっていて意外にもラフな服装の若い人が多い。先ほど対応してくれた女性が笑顔で迎えてくれて、無事に入場することができる。周囲は着飾った人たちばかりで、セーターの自分は浮いているというか、雰囲気を壊している。日本で買った時はS席やB席というようなランクは無かったが、どうやら一番高い席なのだろう。残念ながら肝心の演奏は子守唄になっている。日本から到着したばかりなので、こうなることは予測されていたが、チャイコフスキーのピアノ協奏曲やラヴェル編曲の展覧会の絵など知っている曲が演奏される日にしたのだ。
 ホテルに戻ると相部屋の方もすでに寝ていた。


空軍博物館

 朝食はツアーの一行の大半が偶然集まる。オリエンテーションで朝食はコンチネンタル式になっていると説明を受けていたが、スタッフにバレないことを幸いに、コロッケやソーセージ、スクランブルエッグなどの豪勢な食事で満腹になる。
 オランダへのフェリーの切符を日系の旅行会社で購入してから、郊外にある空軍博物館へ。最寄りの駅は地下鉄の終点に近いColindale。
 駅の付近しか家が無いような場所で一本道だから簡単であるし、前の年もツアーの自由行動の時間に来たことがあるので迷うことなく到着。

 世界各国の名機が並ぶ中で、ドイツの戦闘機メッサーシュミット109と急降下爆撃機スツーカは大好きなので、特に時間をかけて観る。
各国の名機が並ぶ中で世界各国の名機が この施設は国立というか王立。前日のネルソン提督の像もだけれど、軍隊というものに対する意識が日本とは根本的に違うようだ。
 
 中心部へ戻り、ロンドン・ダンジョンへ行ってみる。死刑の執行場面などが再現されているが、ホラー映画はあまり好きではない自分には、館内がジメジメしていることもあり、気分が悪くなったので、早々に退散する。
 
無難な場所ということで、  次は無難な場所ということで、ハノーヴァー・スクエアにある日本人御用達の土産物屋へ。バーバリーのコートや、カシミヤのセーターなどの高級品が並び。日本語が飛び交っている。今まで日本人をほとんど見なかったが、場所によっては日本人観光客がいるものだ。


特急列車の旅

 前日の朝と同じように優雅にイングリッシュ・ブレックファーストを皆で楽しんでいると、黒人のウェイターから「コンチネンタルで」と注意される。質素な食事になってしまったが、これが本当だから仕方がない。さぁ今日から自由両行の始まり。1か月後のパリのホテルでの再会を約束して、それぞれ出発する。
 エジンバラへの列車が出発するキングスクロス駅へ地下鉄で。8時なのに全員が座れるほど空いている。

 列車ごとに改札を行うようで、出発時刻や停車駅が掲示されていて、発車30分くらい前には10人くらいが並んでいる。15分前に改札口に係員が立ち、「来い」と合図する。列車はすでに入線していて、改札口に近いところには1等車が連なっている。通路を挟んで1人掛けと2人掛けのシートが並びゆったりとしているが、豪華さは無い。2等車は2人掛けが通路両側に並んでいる。指定された座席は大きなテーブルのある4人向かい合わせのシート。他に転回しない2人掛けもある。
 定刻の9時ジャストに発車。発車ベルも少し鳴った。各駅の到着時刻と編成案内らしきものが放送から流される。車内改札ではブリットレイルパスは勿論、指定席券にも鋏を入れない。ロンドンのターミナルであるキングスクロス駅を出発して15分くらいで人家がまばらになり、草原が広がる。東京なら多摩川を渡り終えたあたりで、住宅が広がっているのだが。その後食堂車からアナウンス。食堂車に向かった女の子のグループがすぐに戻ってくる。車内販売を利用したようだ。最初の駅は3分遅れで到着。日本のように定時運行にはならないと思っていたら、その先は早着。乗り降りはあるが、30%くらいの乗車率のまま。
 気分転換に食堂車へ行ってみると、やはり営業していない。96ペンスでサンドイッチとジュースを手に入れて、自分の席に戻り大きなテーブルにセットして、食堂車気分を味合う。安く上がったから良しとしよう。
 この列車はイギリスが誇るインター・シティー125で運行されている。125とは125マイル、つまり時速200キロで走行するという意味。新幹線と比較して、トイレにタオルがあり、大きなテーブルやシートがゆったりしている点は評価できるが、揺れるし全体的に汚れている。
 車窓は草原の所々に家があるくらいで、ヨーロッパらしい雰囲気はあるが、単調で平凡。5時間弱で終着駅のエジンバラに到着。


エジンバラ観光

 エジンバラの街歩き始める前に大きなリュックを預けなければならない。駅にある一時預かりで70ペンスを払ったあと観光を始める。これからこのパターンが続くはずだ。
 まずはエジンバラ城へ。坂が多いので疲れる。入場料は1.3ポンド。地球の歩き方で推奨されていた国際学生証による割引は無し。ノイシュバンシュタイン城のような豪華さは無く、 城という名に相応しく戦いの場という雰囲気。

 来た道を戻りながら、ホーリールード宮殿へ。残念ながら内部の見学は出来ないようなので、同じ名前のホーリールード公園の丘を登る。
 広いので全部は回れないが、ここからエジンバラの市街を眺めながら、メンデルスゾーン作曲の交響曲スコットランドの冒頭のメロディーを頭に浮かべると、とても良い気分になる。

 エジンバラという街に大いに魅力を感じたので、1泊して更に滞在したくなってくる。しかし、今後の予定を考えてみると、1か月という期間は長そうではあるけれども、航空機を使わないでノルウェーからスペインまで回るには、あまり余裕が無い。さらにロンドンのホテルで2連泊した直後だから今夜は宿泊費を浮かせるために、当初の予定通り夜行列車で北をめざすことにする。

 その列車の出発は23:05と遅いので、時間潰しを兼ねてグラスゴーへ。クック時刻表によると所要時間は45分とあったが、ディーゼルカーは1時間30分かかってグラスゴー・クイーン・ストリート駅に到着。
 グラスゴーは夜なのになぜか駅周辺に子供が多く、エジンバラよりも騒がしい印象。翌日は寝台車でロンドンへ向かう予定なので、列車の出発する中央駅へ。窓口で並んでいると、前の人が「いつ乗るか」を聞いてくる。当日券とは窓口が違うので、教えてあげようとしたのだろう。 再びクイーン・ストリート駅へ、両駅の間は路線バスで結ばれているらしいけれど、どれに乗るか分からないし、大した距離でもないので歩く。エジンバラへ戻る時は客車列車で、停車駅も少なく所要時間は来た時の半分くらい。


初めての夜行列車

 エジンバラやグラスゴーからインバネスまでは、昼の列車なら4時間もかからないが、夜行列車も運行されている。国内では東京・大垣間の電車なら10回以上は利用しているし、東北旅行なら急行八甲田の普通車が何度もホテル代わりになっていた。ヨーロッパでも団体旅行ならヴェネツィアからウイーンまで寝台車に乗車した経験がある。ただし個人での座席車利用は初めて。荷物を盗まれたという話は、どのガイドブックにも書かれているので不安になるが、イギリスのスコットランド地方だから、まず大丈夫であろうと自分に言い聞かせる。
 車両はオープンサロンタイプ。今のところヨーロッパ的なコンパートメントには縁がない。寝台車も1等と2等があり、通路しか見えないが別世界の雰囲気。翌日に利用するからそれまでのお楽しみ。
 20分くらい遅れて発車。席は結構埋まっていたが、途中でどんどん降りて車内は淋しくなる。こうなるとますます荷物が心配になってくるが、少しは眠る。4:50インバネスに定刻着。北上したけれど、車内ほどは寒さを感じない。駅でオジサンに話しかけられる。言葉がよく解らないが、誘っているような気がした。


美しいハイランド地方

 インバネスは北海に面していて、言い換えれば東海岸にあるが、これから西海岸にあるオーバンをめざす。東西を結ぶ鉄道路線は無いので、バスを利用する。バスターミナルの場所はすぐに見つかったが、バスの発車までは90分くらいある。インバネスはネッシーで有名なネス湖畔の街だけれど、歩くと30分くらいかかりそうであるし、道に迷って本数の少ないバスに乗り遅れても困るので、駅で時間をつぶす。
 6:30のフォートウイリアム行きで出発。運転士から最終目的地のオーバンまで切符を買うが、学割は使えず6.6ポンド。7時を過ぎてもまだ暗くて、ネッシーがいるかもしれないネス湖沿いを走っているはずだけれど、ほとんど見えない。ようやく明るくなったころに小学生がたくさん乗ってくる。9時前にフォートウイリアムに到着。トーマスクックの時刻表によると、このバスの到着する5分前にグラスゴー行きの列車が出発することになっている。1日に数本しか運行されないのに、きわめて意地悪なダイヤだ。次の列車は午後までないので、予定通りオーバン行きのバスに乗り継ぐ。
 絶景というほどではないが清々しい美しさ。ただ、夜行列車による寝不足で、ついウトウトしてしまうことが残念だ。2時間くらいで漁港の町といった雰囲気のオーバンに到着。

 少し歩くと駅は見つかる。グラスゴーへの列車はイギリスで初めて乗るコンパートメント。向かい合った3人掛けの座席の上は網棚になっているが、紐が所々切れていたりして痛々しく、あまりキレイとはいえない旧式の車両だけれど、ヨーロッパという雰囲気はある。
 厳しい自然環境を思わせる特徴的な岩山が連なり、ときどき湖が現れる。登山電車の類を除けば、こんなに感銘を受ける車窓は初めてだ。山や丘と湖が織りなす景観を堪能したいが、ここでも襲ってくる睡魔に何度も負けながら、3時間かかってグラスゴー・クイーンストリート駅に到着。


寝台車

 グラスゴーからは2等寝台車でロンドンへ行くことになっている。発車は22:15で6時間もある。ウインドーショッピングをしたり、シャワーを浴びたりして時間をつぶす。
 駅の掲示によると、21;30から眠ることができるとあったが、列車が入線したのは22時くらいになってから。
 これまでよりも清潔であるし、当然豪華である。毎晩利用したくなる。2人用の個室になっていて2段ベット。それぞれのベットに部屋全体の室内灯のスイッチと、ペットボトルもある。このあたりが日本とは違うところ。寝台車の旅を味合うために発車したことを見届けてから横になる。
 係員が飲み物とビスケットを持ってきたところで目覚める。これはサービスで、昨晩の車内改札時に紅茶を選んでおいた。窓に流れる景色を眺めながら飲みたかったけれど、残念ながらもう終着のロンドン・ユーストン駅に到着している。8時間以上ぐっすり眠った。同室だった初老の紳士は何か挨拶をして下車した。個室内でゆっくり着替えたり洗面するとリッチな気分になる。これで約3300円なら大満足。日本なら個室でなくても倍以上の値段だ。もっともイギリスの寝台料金は安くても、運賃はかなり高いらしい。


大英博物館

 今夜はドーバー海峡をフェリーで渡る。連絡する列車が出発するのはリバプール・ストリート駅。荷物を預けるついでに列車や船の予約をしようと思ったが,「 Don't need」と言われたりして何もできない。
 大英博物館の開館時刻までまだ時間があるので、ハイドパークへ。 地下鉄を降りると雨が降っていて、歩く気も失せる。イギリス人はこの程度では傘を差さないようだが、自分は屋根のあるベンチで休む。それにしてもスコットランドから南下したというのにとても寒く感じる。

 時間になって大英博物館へ。開館直後のせいか人は少ない。
 展示物は膨大だが、世界史の時間にで習った記憶のあるマグナカルタは分かった。ほかにロゼッタストーンがあることも知っていたが、どういう姿をしているのか全く知らないので見つけることはできない。

 これまでほとんどハンバーガーだったので、たまには国内で普段食べているものにしたい。ただ日本食レストランは数が少なく高価なので、ランチは中華料理の店にする。焼きそばとスクランブルエッグとポークライス。ライスと言っても日本のものとは大きく異なるが、中華を食べたおかげで、すっかり元気になる。


ロンドンでの買い物

 今夜ロンドンというかイギリスを離れるが、特に行きたい場所は無い。
 チャーリングクロス駅の近くに土産物屋があったことを思い出し、貴重品袋を作ってくれた友人の妹のために、今から思えばダサいTシャツを買う。2枚とも同じデザインだが、トルコ製とタンザニア製というタグがある。
 自分用にはリバプール駅で、イギリス国鉄のマークとHST125という最新式の列車をデザインしたネクタイ留めを手に入れる。ツアーの仲間はバーバリーやアカスとかいうブランドのコートを買うと意気込んでいた。さすがにバーバリーという名前くらいは知っているが、アクアスキュータムがバーバリーのライバルであることを知ったのは、もっと後になってからのこと。


ドーバー海峡のフェリー

 次の目的地はオランダ。イギリスと大陸はドーバー海峡で隔てられている。学生向きの自由旅行のヨーロッパ・ツアーでもマドリードやローマなどへのワン・フライト付きというモノがあったが、日程に縛られたくなかった。そうなると残された選択は船だけ。地球の歩き方ヨーロッパ編にはドーバー海峡の渡り方という章があり、フランスのノルマンディーやノルウェーのベルゲンに向かう航路などが紹介されているが、主なルートは3つで、フランスのカレーと、ベルギーのオステンドと、オランダのフック・フォン・ホランドへ行くもの。その中で最も時間がかかるオランダにする。言い換えれば夜行便でゆっくり眠っていられるから。
 フェリーの接続列車は5両編成で、ABCE号車には指定席の表示かあるのでD号車に座る。
 
 港のハーヴィッチでの出国手続きは簡単に済み、早々と乗船できる。しかし、「あなたの座席は無い。ソファーにいろ!」などと言われる。不安になるが、指定券を持っていない客は大勢いるようなので、しばらく観察する。リュックなどの大きなバックは荷物置き場に預けることになっていて、下船するまでカギをかけられるらしい。船内はかなり寒いと聞いていたので、厚手の服を出しておく。
 大きなバーがあり賑わっている。一夜を明かしても怒られそうもないから、ここのソファーで過ごすことにする。ビールを飲んでいる人が多い。自分はあまり好きではないが、国際航路で免税だろうから値段が知りたくて注文してみる。5ギルダー払ったのにおつりはたったの1.5ギルダー。つまり250円くらい。揺れるので酔いが回りやすいが、近くでトランプに興ずる若者グループが騒がしくてなかなか眠れない。当然かもしれないが周囲は外人ばかりで、遠く明治時代に留学した人たちの気分になる。明日はアムステルダムを歩き回るつもりだから静かな場所で寝たい。廊下にソファーが並んでいて、横になっている人もいるが数は少ない。怖い気もするが、リュックは預けてあるし、パスポート類は体に着けているから大丈夫だろう。足を伸ばして横になり、5時間くらい熟睡できる。